2007年8月14日

町を描くことから5

人は何か思いを込めて、住まいを思い描く。そうした思いが積み重なったもの、まちにはそれぞれの思いが集積し、大きな意味を持つようになった場所や場面が隠されています。そうした意味を自覚し、つなげてゆくことがまちをつくる重要な条件となることが多いのです。それはまちの形や市民の姿に現れています。それを顕在化させるのも専門家の役割です。




今日は第一部、第5回、6月27日掲載分

「5.町のコンテクスト-文脈

語りかけてくる町の表情はそれぞれ豊かな意味を持っている。岡崎という町は多様な表情が町に混在し、不規則で偶発的な、統一性のない町のように見えるが、その奥には様々な形が意味や意図を持って関係づけられているように感じられる。ばらばらに見えている道、丘、緑、寺社、などそうした様々な町の特性があるつながりを持っていて、それらが重なりあって新しい意味を持ち、複合して豊かな町を形づくっているように感じられるのだ。それらは長い間に継承されてきたものであり、今も大きな意味を持って、文化や歴史、風土や地域を物語る。それは住まう人たちに継承され、築き上げられてきた固有の、共有の町の財産なのである。それらは町をつくる様々な要因やそれらの関係を生み出す町の基本構造であって、むしろ何気ない現実の町の風景のなかにこそ隠れているのである。

私たちはこの町の構造に気づかなければならない。それは町の独自性であり、本質である。町を知るとは、町の幾重にも織り成された重なりを知ることであり、私たちはその中に潜む本当の町の特性を見つけなければならないのである。

それは町に埋め込まれた遺伝子にも喩えることができる。生命の遺伝子が人の身体に埋め込まれて世代を超えてゆくように、町の遺伝子は生活や文化や歴史の遺伝子となって町の形や空間に埋め込まれ、次代に引き継がれる。それらは町のしくみや構造、意味を組み合わせ、町の文脈-コンテクストをつくる。著された書物の膨大な言語の意味の中にそれぞれ固有のストーリーが隠されているように、膨大な町の表情や姿のなかには、固有の歴史や文化、生活や風土、習慣や人の意識が根底に流れているのであり、そこには町のストーリー、つまりコンテクストが隠されているのである。

町にはシンボルとなる中心性や回遊性、あるいは拠点があちらこちらに点在する多元性や多孔性が内在していることがある。また、地形や地域のつながりや逆に断層による不連続性を持っていたり、特別の方向性や軸線が人の流れや風の動きとなって現れていることもある。ひとつの特別の場所が実際の町づくりの基点となっていることもある。こうした町のコンテクストを知り、継承することで町は成り立っているであり、それは次の町づくりにつながる。町を知らないがゆえに、見えないがゆえに間違って開発してしまう。

町づくりは町を知り、その町を継承することから始まる。だからといって、古いままの町を残しておこうと言っているのではない。既存の町のコンテクストに新しい時間と今の生活空間を重ね合わせ、新たな文化や歴史を連ねるのである。そこに豊かな町が生まれてくる。

岡崎には今、その重なりが確かに見えている。私たちが始めたウォーキングマップとは町を描くことからその町の重なりを見つけ出し、コンテクストを浮かび上がらせる地図である。私たちが想像力を失わず、身近で人間的な視線を失わない限り、絶えず町と接することによって、それは目の前の町に現れてくる。私たちに語りかける町の表情はその場限りの表面的な表情ではない。その奥にはただならぬ、町の本質が隠されているのである。コンテクストとは物語の本質であり、町の本質なのである。」

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