2007年6月19日

マスターアーキテクト

多摩の南大沢ベルコリ-ヌへでかけた。ここは住宅都市整備公団の開発した住宅群で、我が建築の師、内井昭蔵がまちづくりのコーディネート役として建築家の新たな役割を作り出したプロジェクトです。竣工以来なので、17年ぶりくらいになります。それぞれの住棟を設計するのは、別の建築家たち、大谷研究室や坂倉建築研究所、現代計画研究所、アルセッド建築研究所などそうそうたるメンバーで、内井は彼らを総合調整して、ひとつのコンセプトを持ったまちをつくりあげたのですが、それはマスターアーキテクトMA制度と呼ばれ、MAである内井がブロックアーキテクトBAであるそれぞれの建築家に対し、デザインコードを用いて、ひとつの共通するまちをつくったと言われています。しかし、本当のところはそんなに単純ではありません。

内井事務所に公団から仕事が持ち込まれた時には設計はほとんど終わりに近づいていて、そこから新たに設計をするようなものでしたし、BAも簡単にはMAの言うことは聞いてくれないりっぱな建築家たちばかりでした。豊かな道と赤瓦の屋根とレンガの外壁という共通したコンセプトを共に試行錯誤しながら、コンセンサスを得ていったのです。
デザインコードでまちづくりができるなら苦労はしません。まちも生きているし、心も持っている。
内井さんは僕たちスタッフと仕事を進める時も、「島崎さん、どう思う?」からやり取りが始まり、まずじっくりと話を聞いてくれます。それでは建築家としてやりたいことができないと思われるかもしれませんが、設計とは、デザインとは対話から生まれるのです。スタッフや発注者、施工者との対話、さまざまな状況をすべて聞いたうえで、内井らしさが出てくるのです。僕らはお釈迦様の手のひらの孫悟空のようなもので、内井さんのデザインから離れて設計しようとどんなに考えて振舞っても、結局は手のひらの上なのです。
内井さんが晩年、まちづくりの調整役に情熱を傾けたように、僕もまちづくりに向いたいと思います。でも、彼を見ているとまちづくりには人間性がとてつもなく現れるんだなぁと感じます。人間力を鍛えなくてはとてもまちづくりなどできないだろうな。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

まちづくりも会社経営も対話と人間力。結局はものごとを前に進めるために必要なことは、まったく同じですね!